することが無くなってしまった。 講習会の会場から帰る途中で、ザザは公園によってみることにした。 特に意味はない。ただの気まぐれである。 ふと目線を上げると、パステルで描いたような青空に赤い風船が一つ、ゆっくり上っていく。 近くで、母親に手を引かれた4歳ぐらいの女の子が、風船を指さして泣いていた。 あちゃー。手を離しちゃったか。 母親はまた買ってあげるよ、の様なことを言ったが、子供のこだわりというか、あれがいいのと言って聞かない。 困ったもんだな・・・ 他人事ながら、ザザがそう考えていたとき。 ガコンッ ・・・カラン。 と、音を立てて、近くに立っていた郵便ポストの前の部分が外れた。 「・・・?」 なんだろう、と思ってのぞき込んだ瞬間、ザザは硬直した。 ポストの中に、人間が入っていたのだ。 「・・・・・・・・・・・・・!!!」 何だこの人!?郵便局の人か!?・・・ンな訳無いか・・・・じゃあ郵便物か!?ありえないってありえないって!!誰なんだよ!?? その謎の人物は、体操座りの状態で前に組んでいた手をするりとほどくと、ポストの上の端に手をかけ、軽やかにその上に飛び乗った。足音はほとんど聞こえなかった。 ザザはピンと来た。この人は、おととい公園でハーモニカを吹いていた人ではないのか。 かぶっているシルクハットは、浅い紺の地に白い縦縞で、古着のようだ。 カッターシャツは白いが、蝶ネクタイは薄い水色で、背広も空に溶けそうな青色。 ズボンは帽子と同じ色、同じ模様。靴は青緑色で、それはばさばさの髪の毛と同じ色。 顔は真っ白に塗りたくって、目の周りには黄色い星が、頬にはオレンジで三つずつほくろが描かれていた。 赤い色で唇を大きくして、鼻には赤い付け鼻が付けられていて、一目でピエロと分かる。 そのピエロはポストの上で身構えた。 ああ。鳩でも出すわけだな。そしてそれに風船を取ってこさせると。 と、ザザは思ったが、ピエロは予想外の行動を見せた。 まずぶかぶかのズボンが、次に胴が、最後には全身が、膨らんで風船になってしまった。 服を着た風船に顔が付いている状態だ。 (ええええええええええ!?) そのままピエロは風船を取って、しぼみながら戻ってきた。 「あ、ありがとう」 女の子はあっけにとられながら言った。 するとピエロはまたしても風船になって、建物の向こうに消えた。 ・・・・・・。 ・・・おもしろい。 どうせやることがないのだ。 暇を使ってあいつを調べてみよう。 それは、よみがえった、傷つけた記憶を隠すためだった。 |